第八回 十不思議、幻の十個目



「ふはははははははは! これだよこれこれこの感じ! 血が滾るぅぅぅ! ヒーローは不滅っ! ではグリーンよ! 最後は協力技で決めようか!」
 額に輝くVのマークが眩しい、レッドライダー(元)が気持ち良さそうに腰に手を当て、高らかに宣言する。絶好調だ。
 対し、床に這いつくばっているショッ○ーの皆さんは疲れ切っている様子だ。
「へーい……へーい……(おれー、久しぶりにー、マジ戦闘したー。こんなときー、考えるー。ショッ○ーはー、辛いよー)」
「へーい、(疲、)」
「へへいへい? ヘイ(てゆーか、あのレッドライダー、中に永久機関でも積んでんの? すんごく走ってるんだけど。元気なんだけど」
「ヘーイヘーイへーい!(それよりも、戦ってたのってさ、目立ってるレッドさんじゃなくて、グリーンさんっしょ? グリーンさん、無駄ない動きで一撃必殺だったんすけど。怖いんすけど。俺、改造されてんのに痛かったんすけど!)」
「ヘーイ……ヘイ!(死んだ振りをしよう……。死んだ! ガク!)」
「ヘーーーーーイ、へーーーーーい!(ちょーっとみんなさー、ここはおれらも協力技しようよー。この間暇だから考えたやつ、高速竜巻リングリング! あれあれ! 実戦、実戦!)」
「ヘーイー(えー。あれ疲れるからヤダー)」
「へーい(俺もやだ)」
「ヘイ(てか、あれやったら建物壊れるんじゃね)」
「ヘイヘイヘイヘイヘイ!(えええええ! ヤダヤダヤダ! するんだー! するんだ! 高速竜巻リングリングー! マジでかましてみたいと思わない?)」
 思わない。
 話している内容がわかれば、状況ほど切羽詰まっているわけではなく、結構余裕ありげなショッ○ーの皆さんだった。しかし、一人のショッ○ーがジタバタと駄々をこね出し、他のショッ○ーがめんどくさそうに「へーい(今度やるから、今度)」と説得している。
「む? 何か、新しい動きを……? グリーン、敵を出し抜こう! さあ、協力技を!」
  状況がわからないなりに「このショッ○ーって、どう考えてもここの従業員さんなんだけど、おっちゃんはああ言うし……まあ、一応戦っとく? ――あれ、 戦ってみたらこれ、相手人造人間? じゃあ手加減そんなにいらないかー」なノリで応戦、ショッ○ーに密かに能力を評価されていたグリーンライダー鹿目は、 協力技……?と頭を捻っていたのだが、元レッドライダーを振り返った。
「協力技って? そんなの知らないよ」
「はっはっ、こんな時に冗談は面白くないぞ、グリーン!」
 またまたあ、と、元レッドライダー、住吉が片手を振る。しかし、残念ながら、否定の言葉が返って来ない。住吉はグリーンライダーに詰め寄った。
「―― ええっ? 私が現役だった時は、ライダー全員攻撃や、各カラー二人攻撃、三人攻撃や、もう様々! だったんだぞ! ポーズも決め台詞も百種以上! 特に全 員攻撃はみんなの呼吸と心が一致していてこそはじめて使えるっていう、私たちも戦いの終盤になってようやく習得し、先祖伝来受け継がれてきた……」
 そんな主張に、言いづらそうに、グリーンライダーが返す。
「ほら……今のリーダー、京語兄ちゃんだからさ……」
 熱く燃えたぎる背景を背負っていた元レッドライダーの肩が、心なしか下がった。
「…………」
「協力技とか、レッドが絡むのは一切ないっていうか……。全員攻撃……? あ、レッド以外全員攻撃ならたぶん……」
 できるかも、とグリーンライダー鹿目が言い終える前に、
「うううっ!」
「おっちゃんっ?」
 ガクッと元レッドライダーはその場に膝をついた。
「そんな……そんなことになっていたなんて!」
 プルプルと震えている。
「うおおおおおお京語ぉぉぉぉぉぉ! 私の教育が甘かったばっかりに! そんな、ライダー戦隊ともいうべき我々に必須の、連携をおろそかにしていたとは……! リーダーたるものが、何ということを……! ぐすっ」
 さめざめと元レッドライダーは嘆いている。
「おっちゃん、何も泣かなくても……」
「くっ……! 一体何が悪かったんだろう?」
 嘆きは深い。


 さて、そんな元レッドライダーと、乱心気味の仲間を説得している白き刃の構成員たちから少し離れた――正確に言うと廊下の隅っこ――ここに二人のショッ○ーが密かに佇んでいたりする。
 何を隠そう、かつての己の行いを抹消しようと呪いの血文字スポットに赴き、「え? 何これ、なんで戦闘現場?」とひとまずショッ○ースタイルでその場にひっそりと同化した幸太。
  問答無用で戦闘が始まり、「ヘーイへへへへへい!(十三号はさ、お試し期間で未改造だから、観客してていーよー。つかライダー相手だし、戦闘なんかしたら パンチ一撃蹴り一回で内蔵粉砕で死ぬっしょ!)」と、中身はまだ生身と思われているので、蚊帳の外に置かれた見た目ショッ○ー、実は現役赤ライダー京語。
 ひっそりと同化した直後、蚊帳の外の見た目ショッ○ー京語に幸太は手っ取り早くヘーイ語で話しかけた。
「ヘーイヘーイ(何これどうなってんの?)」
「ヘーイ……」
「ヘーイって、それそのまんま……あれ、お前京語?」
 そんな感じで無味乾燥な再会を果たした。
「なあ、江口。オレは何故皆木家に生まれてきたんだろう……」
 京語は大ハッスルしている父の変身姿を見、全身から哀愁を漂わせていた。そして、こまでのいきさつを幸太に語り、今に至る。
 聞き終えた幸太は、成程、と納得した。――要するに住吉の暴走、及びショッ○ーたちの勘違いによる。しかし、怪我の功名か、普段の息子の所業が、住吉の暴走のほうは、矛先が変わったようだ。――主に息子への嘆きに。
 意外な再会を果たした当初は、京語は意気消沈、呆れ、諦め、罪悪感、などの負のオーラを放っていたが、今、負は負でも、隣から激しいストレスのオーラを幸太は感じている。
 ――主に、住吉が嘆きだしてから。
「一体何が悪いのかって……ライダー教育のすべてに決まって……」
「こうなったら……、敵よりも、京語だ! 一刻も早く京語を探して喝を入れないと……はっ! しかしそうするとサキちゃんが……! くっ!」
 住吉は見えない敵と戦っている。
 苦悩のポーズで頭を抱えた元レッドライダーを見、グリーンライダーが困ったように頬を掻いた。
「京語おおおおお! ――はっ!」
 ポンッと、元レッドライダーが手を打つ。
「この京語用予備変身ツールを飛ばしてみよう! そうだ! この手があったじゃないか! 私としたことが、焦るあまりついうっかり忘れていたようだ……! 緊急事態である今ならば……きっと!」
 どこからか赤い腕時計を取り出した。
 ぴゅう! やあ、妖精さんの時間だよ第一弾だよ! 今回は二回あるんだー。
  まあ、だから手っ取り早く済ますね。『変身道具は基本一人に一個で命と等しい! 皆木家初代ライダー』、なんだけどさ! 京語君はああだからねー。変身 ツールなんて持ちたくない息子と、何としても常に持たせておきたい父の仁義なき戦いの結果! 父住吉は厄博士に頼んでオリジナルと比べても遜色ないってい うか、むしろオリジナルを超えた京語専用変身ツール赤腕時計予備を実現! なんと! これは自動で持ち主の元に帰ってきます。捨てても戻ってきます。勝手 に腕に装着されます! そしてライダー変身させます! 強制変身しちゃうから、TPOを考えなくちゃってことで、さしもの住吉さんも実用までもう一段 階……て思ってた代物さ! じゃ!
「作動させて――おっと、しまった。間違って、念のため作っておいた江口君用のも……」
 住吉は黒腕時計変身ツール予備も持っていた。
 ――住吉の手から離れた腕時計が二つ、飛んだ。真っ直ぐに、あるショッ○ーたちの前で停止し、それぞれの周囲を一周した後、腕に巻き付いた。
 黒腕時計は幸太に。赤腕時計は京語に。
「ヘーイ? ヘイ……(ん? 十三号と……)」
「ヘーイ?(ひい、ふう、みい……あっれー、一人増えてね? あのショッ○ー誰だっけ?)」
 何やらただならぬ気配を感じ、変身ツール腕時計を引きはがそうとする幸太と京語だったが、強制変身のほうが早かった。
 眩しい赤と黒の光が左右に走る。ショッ○ー二人の姿は消え、光が去った後、そこには現役レッドライダーと、ブラックライダーの姿があった。
「…………」
「…………」
 呆然としている幸太と京語、二人に視線が集中する。
 一番衝撃を受けているのは、住吉だ。有名絵画、ムンクの『叫び』ポーズになった。
「ば、馬鹿な……? 白き刃の構成員が京語で江口君も……?」
 そして、変身済み京語は、内なる怒りにブルブル震えていた。
「オレの……無変身期間更新が……。オレ内敵味方スイッチも、入って、ない、のに」
 震えが止まった。
「――親父」
「――わかったぞ! これは京語の潜入捜査というやつか!」
「親父、いっそ、オレたちは、一度拳をまじえるべきなんじゃないか? ちょうど、互いに変身してるし。そろそろ意思の疎通が必要だと思うんだ。……そういうわけで、戦うぞ」
 グリーンライダーがノってきた。
「おー! おれ、京語にーちゃんと一回戦ってみたかったんだ! それならやるやる!」
「ええっ? なんてことを言うんだグリーン! だいたい、それでは一対二ということに……」
「ブラックも戦う」
 幸太より早く、何故か京語が断言した。
 確かにブラックライダーに変身してしまった幸太だったが。
「俺はどっちかっていうと、壁の文字消しをし」
 変身自体は嫌だったものの、それより不思議スポットのほうが気になる。が、空気を読んで、言葉を、し、で止めた。
「戦うよな? 戦うよな? あれは敵だよな?」
 幸太に詰め寄りながら、京語はあれ、ならぬ父住吉、元レッドライダーを指差している。
「……お前、ちょっとスイッチ入ってねえ?」
「入ってない。オレはとても冷静だ。そういうわけで、最初から飛ばしていくことにする」
 接続詞がちっとも繋がっていなかったが、京語の後半部分の言葉に偽りはなかった。
 敵の方向を向くと、最初から個人技最高技の準備に入っている。
 やけくそっぽい感じでポーズを決め、いざ――。
「……ん?」
 その時、幸太の、よくわからない方面の第六感が働いた。
 いざ、というところで、京語の真下に穴が空いた。
「おいっ?」
 第六感が働いていた故に、咄嗟に手を掴んだ幸太もろとも、穴に呑み込まれる。
 ライダー二人を呑み込み、穴は消えた。
「京語っ? 江口君っ?」
 元レッドライダーの叫び声が空しく木霊する。
「ヘーイ……(これは、もしや、幻の……)」
「ヘイ(十不思議十番目)」
 最後に、ヘーイ語はわからないはずだが、グリーンライダー鹿目が偶然の一致か、ピタリと締めた。
「時空の狭間……!」


 よばれて飛び出てジャジャジャジャーン!
 これ、わかる人いるのかなあ? あと、呼ばれてなくても出てくるのが妖精さんさ!
 うん、なんで出てきたかっていうと、今回は十不思議の最後について説明しようと思ってさ!
 十、時空の狭間
 ってやつ!
 これ、江口の幸太君は関係ないんだよね!
 ほら、江口さん家も、だてにボンダラ飼ったりしてないんだよね! 怪人とかも創ってるし、ていうか怪人さん住んでるんだよね! 妖精さん、この間お邪魔して秘密暴露大会……っと、今のはナシ!
 まあ、超常現象的本物もあるって感じ。滅多に確認もできないから幻。
 この狭間って、特定位置にあるんじゃなくて、別邸内をシュンッていつも移動してるんだけど、目には見えないし、透明だから、触れなければ無害! 運が悪いと当たっちゃう! でも一等ジャンボ宝くじが当たるよりも低い確率だから無問題!
 でも当たると狭間に落ちるんだよねー。そして狭間からどこかに吐き出されるんだ!
 行き着く先は、お楽しみ。そんな感じさ!


 ――落ちた。
「ってえ……無事か、京語」
「何とか……」
 呼びかけあい、場所がどうやら江口家別邸内であることは建物で判断できた。しかし幸太も京語もすぐに沈黙することになった。思わず互いを確認する。何というか、不本意でも、お互いのライダーカラー的に?
 何せ、いたのだ。
 死闘を繰り広げている……ように見える二人組が。数メートル先に。
 ブラックライダーとレッドライダー。
 ライダースーツに身を包んだ正義の味方。
 そんな二人が、何故か戦っている。ブラックライダーがベルトを操作し、非常に嫌そうに決め台詞を(おそらく、言わないと発動しない仕組みなのだろう)言い、必殺キックでレッドライダーを吹き飛ばした。
 吹き飛ばされたものの、どういう移動手段か、太陽――確か夜明けまでは時間があったはずだが――をバックに空から振ってきたレッドライダーがこちらは高らかに決め台詞を言い、飛び蹴りをかます。キックを決められたブラックライダーが、レッドライダーの足首を掴んだ。
「マジ戦闘だな……」
 幸太が思わず呟き、
「ああ……」
 突発事態により、クールダウンした京語が頷いた。
 幸太たちはライダーに変身している。互いのカラーは赤と黒。ここにいる。では、あれは誰だ。
 ――よく見れば、スーツの形状が自分たちのものとは異なっていた。と、いうことは。
「あれってさ……」
 幸太が口火を切り、
「もしかすると……」
 京語が頷く。

「……親父?」
「――親父?」

 二人の声がハモった。
 しかも、変身済み親父たち(予想)のライダー姿はこう、とても若々しかった。
 内心の嫌な予感もハモった。

 ――ここ、どこよ?


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