2. 勇者のご一行紹介


 旅の仲間は、全部で六人。しかし戦闘に参加できるのはオレ含め三人のみ。何故三人なのか? 何故六人全員で戦わないのか?
 ――大いなる神の意志だ。
 大いなる神の意志によりオレは勇者になりリーダー降格され、ヒロインとくっつきそうな流れの中に放り込まれ、ここぞという時にいつも間に合わず臍を噛み、ヒロインパワーを拝むはめになる。
 諸問題はすべて大いなる神の意志で片がつく。
 ……大いなる神よ。オレには辛すぎる。
 さて、仲間紹介だ。
 まずオレ。
 カーツ。十九歳だ。普通と端整の中間な顔立ち。オレの顔立ちがこうなのも大いなる神の意志だろう。今時の勇者は超絶美形すぎても、逆に平凡すぎてもタブーだ。勇者にも流行がある。オレは赤銅色の髪と、農作業でいい具合に焼けた小麦色の肌をもった勇者だ。剣をとったのは半年前だが、いまや戦闘の熟練者。村の自警団から「装備はな……?」なんて話を聞いていた頃が懐かしいぜ。
 選抜で出続けていると自然と強くなる。寄り道をして無駄にモンスター狩りをしているせいもあるだろう。仲間の中ではオレが一番強い。……数値の上では。
 数値をくつがえすエセ聖女なんかもいるから一概には言えん。エセ聖女、絶対弱いはずなんだが。選抜に入れてないから。どうしてもっていう強制時をのぞいて一回も戦闘に出したことがないから。それなのにエセ聖女に助けられる場面がなきにしもあらずなのは納得いかん。……これも大いなる神の意志か……。さしものオレも神には逆らえない。
 次、クリステル。永遠の補欠十七歳。エセ聖女。あるいはハネ女。通称ヒロイン。得意技、説教、出し惜しみ、敵の神経を逆撫でする、トラウマを抉る、物事を都合よく解釈する、等々だ。
 何故なのかさっぱり皆目不明でとんと理解不可能だが、野郎どもはこいつに惚れる。顔に惚れるのならわかる。エセ聖女は美少女だからだ。銀色の髪にほっそりとした肢体。けぶるような瞳は、オレも初対面時だけはくらっときた。しかし前述の内面を知って敬遠したい女不動の一位。天然なのか計算づくなのかはわからんが、どっちであったとしても恐ろしい女だと思う。エセ聖女の説教で改心して仲間になった奴もいる。摩訶不思議。エセ聖女は、小出しにオレに自分の不幸な過去をアピールしてくるんだが、絶対聞かないようにしてるんでその辺は知らん。馬鹿野郎。オレだって辛い過去なんて標準装備だ。
 ああ、あと断言しておこう。
 オレとエセ聖女の間に恋愛関係が成立することは絶っっっっっ対にない。
 もし万が一オレの意志を無視してそんなことになろうものならオレは世界滅亡バッドエンドコースを迷うことなく選ぶ。
 次、ダガート。おっさん。選抜メンバー四十七歳。仲間の良き相談役だ。難を言えばヒロイン教の熱心な信者でことあるごとにオレとエセ聖女をくっつけようとしてくるところ。それがなければ戦闘でも役に立つし、大柄なくせに速度もあるし、治癒魔法も使えるし、比較的まともなことを言うし、完璧なんだがな。戦闘中は斧を投げ、振り下ろし、血しぶきをあげながらいつも豪快に戦っている。このおっさんも辛い過去標準装備だ。ヒロイン教から解放してやりたい。
 次、リッテ。弓も杖も使える補助、攻撃にも長けた選抜メンバー十五歳。エセ聖女に密かにいじめられているんじゃないかと何かとオレが庇いがちな少女だ。エセ聖女の説教で改心してメンバー入りした元敵。エセ聖女に傷口をさりげなく日々抉られている薄幸の少女でもある。敵として諜報部隊にいたのだって、リッテが望んだことじゃないだろうに。リッテがヒロインだったらなあ、とこの所とみに思う。エセ聖女の嘘くせえ説教に騙されるほど、実は純粋だ。戦闘でも役に立つ。頭もいい。買出しに行く時、いつもリッテを誘うにようにしているせいか、オレにも心を開いてきてくれているようだ。幸せになって欲しい子だ。
 次、ランドル。元騎士団所属槍使い。たまにだが戦闘にも出すようにはしている。二十歳。オレにことあるごとに突っかかってくる。この間その理由が判明した。こいつはエセ聖女に惚れている。男の嫉妬は醜いぜ。てか、筋違いな嫉妬は割にあわん。ぜひお前がエセ聖女とくっついてくれ。オレは心から応援しよう。奴の行動にはすべてクリステル補正がかかる。クリステル補正が抜ければ、まあまあ悪くない奴だと思うんだが。ことあるごとに年上風をふかせてくるのも止めて欲しい。貴族出身のボンボン。ヒロイン教にどっぷり浸かっているだけでなく、恋もしてしまっているので、内心の葛藤があるようだ。悩んでないで告れ。
 最後、ユークロア。年齢不詳、性別不詳の仮面魔術師。強いんだが、あまりに実態がつかめないため、選抜メンバーからは外している。交流を深めようか深めまいか、迷っている人物だ。こいつさー。裏切りそうな気がするんだよな。しかし、もし裏切る時はぜひエセ聖女を連れていってくれ。そうしてくれたら文句は一切言わん。いまんところは味方だ。仲間の中では浮いている。一番親しいのはオレだ。
 以上、オレ含む六人。まだ仲間になりそうな奴らもいるんだが、現時点では仲間ではないので紹介はいらないだろう。個人的にはロシェルにメンバー入りして欲しいんだが……。オレの読みではロシェルとリッテは兄妹だ。
「皆さん。夕食の準備ができましたよ」
 エセ聖女が器にスープを盛り付けている。次に目指している街、仄暗き昼を前に、オレたち一行は野宿をしている。
 ところでオレは味オンチだ。エセ聖女には唯一の欠点があり(他の奴によると、だ。オレには欠点だらけにしか見えん)それが料理の腕前だ。不味くもないが美味くもない、味のそっけもない料理しか作れない。
 皆、我慢しながら食べているという。
 しかしオレは味オンチなので、何を食べても同じ。無表情にかきこむ。
 これだ。これが問題だ。エセ聖女が嬉しそうに微笑む。そう。勘違いされているんだ。
 リッテは料理が上手いらしい。そのリッテの料理もオレは無表情に食う。だって味オンチなもんで味がしないから。
 美味かろうが不味かろうが平等に食う男として、エセ聖女の好感度があがってしまっているらしい。不本意だ。非常に不本意だ。逆にリッテなどは自分の料理は口にあわなかったのかと気にしているようだ。
 ああ。声が出せたなら。
 せめて字が書けたら……。農民出身のオレは字が書けないのだ。
 真実を伝えるべく、字を習うこととしよう。



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